戦後、良質なデザインを持ち、大量生産可能なアイテムが世界じゅうで競うようにつくられ、ミッド・センチュリーブームが起こった1950年代。
北欧各国でセンスあるデザイナーが数多く活躍しましたが、ノルウェーも例外ではありません。
しかし、ノルウェーで1979年に油田が発掘され、モノの生産で他国と競う必要がなくなったことから、ノルウェーブランドの多くはデザインの世界から姿を消してしまいました。
かつてのノルウェーデザインは、いまでも世界中のファンによって愛され、日々の暮らしに溶け込んでいます。
現在ノルウェーのブランドは、多くが日本ではまだあまり知られていませんが、素朴なテイストや遊び心に溢れたデザインが多く、暮らしに取り入れやすいアイテムが多く揃います。
今回は、すでに歴史の幕を閉じた3つの名ブランド(Egersund・Cathrineholm・Stavangerflint)に焦点を当てて紹介します。
目次
Egersund(エーゲルスン:1847 – 1979 )
エーゲルスンは、Johan Feyer(ヨハン・フェイエル)がノルウェーの南西部・Egersund(エーゲルスン)にて創業した陶器メーカーです。
当初はシンプルな器の生産を中心に行っていましたが、1860年代から陶器生産に力を入れ始めました。
以来、時代によってフィンランドのArabia(アラビア)社、スウェーデンのUpsala Ekeby(ウプサラ・エクビー)社に経営権が移る経緯を経て、1979年に窯を閉じました。
デザイナーが不明のアイテムや、オフィシャルなシリーズ名を持たないものもありますが、アール・ヌーヴォー調の優雅な花柄から、幾何学模様を用いた太めラインのパターンまで幅広く、さまざまなテイストのデザインが楽しめるブランドです。
今でもノルウェーの家庭でよく見かけるブランドのひとつで、丈夫なつくりのキッチンツールは世代を超えて使われ続けています。
Zigzag柄シリーズ
1950年末~1970年代にかけて生産された、ジグザグ柄のアイテムシリーズです。
デザイナーの詳細はなく、各アイテムの裏側には、生産年代ごとに異なるエーゲスルンのブランドロゴマークがスタンプされています。
プレートやボウルのふちに規則的に並んだ幾何学模様が特徴的ですが、正確なシリーズ名はないようです。
ジグザグ柄の間にはドット模様が細かく配置され、その様子はペン先のようでもあり、建物群のようでもある、不思議なパターン。
ジグザグ線の上を這うように引かれたラインの色は、年代やアイテムによって異なり、色違いで揃えたくなる不思議な魅力を持ったシリーズです。
Solsikke(Korulen)シリーズ
ノルウェー語で「ひまわり」を表す『Solsikke(またはKorulen)』シリーズは、1971年にUnni Margrette Johnsen(ウンニ・マルグレッテ・ヨーンセン)が手がけたシリーズです。
別名のKorulen(コールレン)は、エーゲルスンが1971年から76年にかけて生産したシリーズの総称を指しています。
シンプルなフォルムのプレートやコップに、目を惹く大きなひまわりの絵柄が描かれています。
落ち着いた暖色でまとまったトーンが北欧らしい雰囲気で、夏に限らず晴れた日のランチやティータイムのお供にしたいアイテムです。
Kongoシリーズ
1960年に発表された『Kongo(コンゴ)』シリーズは、エーゲルスンの中でも人気の高いシリーズです。
エーゲスルンに最後まで在籍した唯一のデザイナー Kåre Blokk Johansen(コーレ・ブロック・ヨハンセン)が担当しています。
玉ねぎを模した大胆なパターンと、パステルカラーで色づけした、お皿のふちや取っ手が魅力的。
どこかレトロな雰囲気が漂い、使うたびにわくわくさせてくれる、宝もののようなシリーズは、スパイスたっぷりの焼き菓子とコーヒーをあわせたくなります。
Cathrineholm(キャサリンホルム:1907 – 1972)
ノルウェー南東部にある、フィヨルド沿いの小さな町 Halden(ハルデン)で創業されたメーカーです。
開業当初は鉄産業を行なっていましたが、1907年になると、金属にガラス質の釉薬を塗って加工するホーロー製アイテムの生産を開始しました。
きっと誰もが一度は目にしたことのあるノルウェーデザインの代表的な存在・ロータス柄の鍋やボウルを世に送り出したメーカーとして有名です。
当初はノルウェー国内にホーローの知識を持つ人がいなかったため、ドイツの知識人から学び、独自の技術を加えて発展させていきました。
商品開発とデザインには「北欧デザインの女王」と呼ばれるノルウェー人デザイナー Grete Prytz Kittelsen(グレーテ・プリッツ・キッテルセン)が携わっています。
ホーロー製アイテムの開発にあたり、ジュエリーデザインのバックグラウンドを持つグレーテが「磨く」「削る」といった基礎的な技術を開発し、後世のホーロー製品づくりに大きな影響を与えました。
キャサリンホルムは1972年に閉業を余儀なくされましたが、現在はデンマークのLucie kaas(ルーシー・コース)社から、ホーロー製ではなく陶器製のロータス柄アイテムが、復刻盤として販売されています。
Lotusシリーズ
1962年に発表された『Lotus(ロータス)』は、Arne Clausen(アルネ・クラウセン)のデザインが人気のシリーズです。
1950年代初頭、キャサリンホルムに入社したアルネは、先述のGrete Prytz Kittelsen(グレーテ・プリッツ・キッテルセン)と共に、ホーロー製のキッチン用品を展開していきました。
ロータス柄の誕生のきっかけは、アルネが余暇時間を使って自分のケトルに描いたイラストだといわれています。
次第にロータス柄は世界中で人気を博していき、1964年には15万個を超えるシリーズ売上をたたき出しました。
縦長のシンプルな葉っぱが並んだパターンは、ボウルをはじめ鍋やオーブン皿といったアイテムに施され、カラフルな色展開は眺めているだけでわくわくします。
特にアメリカ・ヨーロッパでは、冷蔵庫の残り物をあわせてオーブンで焼き上げる料理「キャセロール」に適していると、キャサリンホルム製鍋の人気が沸騰しました。
鍋のふたは、ひっくりかえすと鍋敷に早変わりするすぐれもので、オーブンからそのままサーブできるデザイン性の高いアイテムとして、現在でも多くのファンに支持されています。

Stavangerflint(スタヴァンゲルフリント:1946 – 1979)
via Stavangerflint – Wikipedia
1946年、ノルウェー西部の港町 Stavanger(スタヴァンゲル)で創業された陶器ブランドです。
1968年に同じくノルウェーの陶器ブランド Figgijo(フィッギオ)に統合され、1979年に完全買収される形で幕を閉じました。
やわらかで落ち着いたカラートーンと、素朴なイラスト・柄が多く、日本の料理ともあわせやすいテイストが揃います。
優れたデザイナーにの活躍が目覚ましく、Figgjo社にも在籍したTuri Gramstad Oliver(トゥーリ・グラムスタッド・オリヴェル)をはじめ、Inger Waage(インゲル・ヴォーゲ)やKåre Berven Fjeldsaa(コール・バーベン・フィエルサー)によるシリーズが有名です。
Brunetteシリーズ
釉薬をたっぷり塗ったつやのある外見と、全体的に落ち着いた色味の『Brunette(ブリュネット)』シリーズは、1958年よりスタヴァンゲル社のリーダーとして活躍した Kåre Berven Fjeldsaa(コール・バーベン・フィエルサー)が手がけました。
動物の産毛のような細かな模様と、ぽってりとした形が素朴な雰囲気を醸し、安定感のある仕上がりになっています。
単色のアイテムもあれば、クリームとブラウン、ネイビーとペールイエローといった異なる色の組み合わせも存在し、ポットや鍋ぶたと本体の色、あるいはコップとソーサーの色のコントラストを楽しめます。
高温で焼かれているため、丈夫で熱に強いのも、長く使う上でうれしいポイント。
シンプルで飽きのこないデザインは、食事やお茶の時間に安らぎのひとときをもたらしてくれます。
Bambus Flamingoシリーズ
『Bambus Flamingo(バンブス・フラミンゴ)』シリーズは、Inger Waage(インゲル・ヴォーゲ)が1958年に発表しました。
緑が買った黄色のふちに、魚・玉ねぎ・レモンのイラストが印象的なデザインは、ひと目みたら忘れられないインパクトと、半世紀以上も前につくられたとは思えないアーティスティックなタッチが魅力です。
鍋・ソースパンのふたや取っ手の一部は黒く塗りつぶされ、モダンな雰囲気すら漂います。
耐久性の高いスタヴァンゲルフリントのアイテムは、グラタンやパンといったオーブン料理、煮込み・スープのような、あつあつの料理を楽しむのに最適です。
実は魅力たっぷりな、ノルウェーの名ブランド
ノルウェーのデザインは、他の北欧諸国同様にレベルが高く、使いやすさと耐久性に優れたアイテムが多く揃っています。
スタイリッシュというよりは、素朴であたたかみのある雰囲気を残したデザインが多く、だからこそ日本でも日常生活にあわせやすいものばかり。
当時から現在まで、ノルウェーの家庭でよく見かける鍋やプレート、カップといったアイテムは、ユニークながらも主張しすぎないからこそ、さまざまな場面で活躍し、長く大切に受け継がれています。
ぜひ、ノルウェーブランドのアイテムと一緒に、暮らしの中で心休まる時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。