いつの時代も、わたしたち人間は「火」と深いかかわりを持っています。
かつて日本の家々で当たり前だった「囲炉裏(いろり)」は、まさに暮らしのあらゆる場面で人々に「火」を届ける、頼もしい存在でした。
実用的な側面だけでなく、家族や地域の人々のコミュニケーションを築くパワーも秘めていた、囲炉裏。
いま、わたしたちが今一度見直すべき暮らしの中に、囲炉裏を取り入れてみませんか?
目次
囲炉裏(いろり)とは
囲炉裏(いろり)はかつての日本の家々で、部屋の真ん中に四角い炉を構え、大切な火や暖の場を担ってきた道具。
よく和食レストランや料亭にある「炉端(ろばた)焼き」をイメージしていただければ、分かりやすいのではないでしょうか。
テーブルや座敷の中央にくぼみがあり、敷き詰めた炭の上に網を置き、グリル料理を楽しむ、あの仕様です。
古民家にある多くの囲炉裏では、上から吊るされた自在鉤(じざいかぎ)と呼ばれる金具に、やかんや釜を取り付けたり、五徳(ごとく)という台を用います。
地域によって多少の違いはあるものの、囲炉裏の多くは広間の中央に位置し、炊事や灯りのために、または家族団らんの場として、暮らしの中で欠かせない存在でした。
今日ではほとんど姿を消してしまった囲炉裏ですが、実用性の高さと見た目の美しさから、近年再注目されている生活道具のひとつです。
火鉢との違い
すこし似た道具のひとつに「火鉢(ひばち)」というものがあります。
大きな違いを挙げると、本来の囲炉裏(いろり)は可動式ではなく、座敷や床にあらかじめセットされた設備を指します。
対する火鉢は、さまざまなサイズがありますが、小さなものだと移動が可能で、火の元や暖をとるために、炭を入れて持ち運びができるもの。
火鉢は囲炉裏がない部屋の暖房代わりとして、またはちょっとした煮炊きに活躍する便利な道具です。
囲炉裏が持つ、5つの役割
囲炉裏(いろり)は、戦後にストーブや家電製品が普及するまで、多くの家庭で用いられてきました。
今でこそ、お目にかかれる機会がなくなってしまった囲炉裏ですが、実はさまざまな役割を持ち合わせ、人々の暮らしの中に深く根付いた道具。
細かいポイントを挙げるときりがないほど多くの機能を持つ囲炉裏ですが、ここでは主に5つのポイントに絞ってご紹介します。
ぜひ古き良き日本の暮らし方に目を向け、本来の「暮らし」を再考してみて下さいね。
調理のため
主に囲炉裏(いろり)は、湯を沸かす・米を炊くといった目的で、炊事に活躍しました。
地域によっては台所に釜土を構える家もありましたが、今ほど多様な食材や調理レパートリーがなかった時代、シンプルな煮炊きがメイン調理となることもしばしば。
また囲炉裏に網をセットしたり、敷き詰めた灰の上に串を刺すことで、焼き料理も楽しんでいました。
囲炉裏があれば、出来立ての料理をいただく幸せを味わえます。
部屋をあたため、結露防止
かつて火をおこすのに大変な時間と手間がかかった頃、囲炉裏は貴重な火の元として用いられました。
特に冬場は常に火を絶やさないようにし、部屋をあたためる役割を果たしたといいます。
同時に、火であたためることで、家の中の湿気を取り除く効果もありました。
建材に含まれる水分が抜け、結果的に腐食しにくい丈夫な家になるともいわれ、湿気の多い日本で囲炉裏が欠かせなかったのも頷けます。
防虫効果
もちろん防虫剤・殺虫剤なんてものはなかった時代、人間と虫は今よりもっと共生関係にあったことでしょう。
しかし、衣服につきやすい虫・食料にわきやすい虫を避けたい気持ちは、当時の人々にもありました。
そこで、囲炉裏(いろり)で薪や炭をいぶし、煙によって虫を撃退していたのです。
一酸化炭素中毒や眼病のリスクもあるため、頻繁に行なっていたとは思えませんが、自然の材料と暮らしの知恵が生み出した、実用的な方法だといえます。
乾燥
広間の囲炉裏(いろり)に火をともすことで、暮らしのあらゆるものを乾燥させるのに役立ちます。
かつて洗濯機やディハイドレーターのような、便利なマシーンがなかった時代において、衣服や食べ物を乾燥させるために、人々は囲炉裏を上手に利用していたのです。
洗濯物を干したり、天日干しのできない環境で食べ物を乾かしたりと、家電製品のない昔の生活では欠かせない存在でした。
電気やガスの力で乾かすのもいいですが、やはり天然の資源によって乾燥させる気持ちのよさってありますよね。
コミュニケーション・癒しの場
人類の画期的な発明品ともいわれる「火」のある場所には、自然と人が集まるもの。
みんなで食事を囲んだり、暖をとる空間では、会話も自然と生まれます。
また一度でも焚き火や、窯に薪をくべた経験のある人になら分かっていただけると思うのですが、火には強烈な癒しの力があるもの。
囲炉裏の火が人をリラックスさせ、家族や地域の人々と良好な関係を保つ役割を担っていたのでしょう。
現代の住居に、囲炉裏を取り入れてみよう
囲炉裏について知れば知るほど、自分の暮らしの空間に取り入れたくなってきませんか?
実は、現代の住居にも簡単に取り入れられるようにアレンジされた囲炉裏があります。
建物の構造によっては、換気システムの見直しが必要になることもありますが、囲炉裏があるだけで癒しと実用性を加えることができるのです。
今回は、ビルトイン型の埋め込みタイプと、移動ができる座卓タイプの2種類をご紹介します。
埋め込みタイプ


古くから多くの家で用いられてきた形です。
かつては畳や座敷のある空間の中央に埋め込まれるのが主流でしたが、フローリングの多い現代の住宅とも相性抜群。
座布団やクッション・コンパクトなカーペットを周りに敷いて、気軽に囲炉裏のある空間を楽しむのもよいですね。
また、土間と床間を繋げる空間に囲炉裏を設置することもできます。
かつて一部の地域ではポピュラーだった様式で、靴を脱がずに使用できるため、ゲストをもてなすのにぴったりのスタイルです。

座卓(ローテーブル)タイプ


すでにある家具やインテリアを邪魔せず、気軽に取り入れられるのが、動かせる座卓タイプの囲炉裏(いろり)です。
サイズを選べば、少人数用から大家族向きまで、幅広い選択肢があります。
また持ち運びが可能なため、アウトドア・キャンプ用に取り入れる人も。
自宅内だけでなく、庭をはじめ野外で使用できるのがメリットです。
火の持つパワーを存分に活かす、囲炉裏(いろり)の魅力
人と人をつなげ、調理から対話の空間まで、あらゆる場面で暮らしを支えてきた囲炉裏(いろり)。
インターネットが普及し、便利な道具に囲まれて生きるわたしたちが、今一度かつての暮らし方を見直すタイミングに立たされています。
マルチな役割を持つ囲炉裏を使いこなせば、単純に便利なだけでなく、本来感じられるべき「暮らしの豊かさ」を気づかせてくれるのではないでしょうか。
昔の人の知恵を借り、ほんとうの豊かさを見つめなおすことで、囲炉裏の魅力がもっと見えてくるはずです。