日本でも人気が高く、ひとつあると部屋に素朴なあたたかさを与えてくれるキリム。
古くから遊牧民によって織られるキリムは、人々の暮らしに深いかかわりを持ち、独特のモチーフによる美しさと使い勝手のよさで、今や世界中の人々を虜にしています。
近年は小さなサイズが増え、インテリアとしても手軽に取り入れやすいキリムには、パターンや生産地によって違った魅力が存在します。
初めての方も、すでにキリムを持っている方も、もう少しキリムについて知りたい!と思ったら、ぜひ最後まで読んでみて下さいね。
目次
Kilim(キリム)とは
キリムとは、一般的なペルシャ絨毯の名称であり、また技術名を指します。
カタカナでは、トルコ語で「キリム」、ペルシャ語で「ギリム」と表記でき、地域によってKelim, Kilim, Qilim, Chilimのように、さまざまな綴りが存在します。
ペルシャ語では「粗い織毛布」という意味をもち、古くからカーペットやカーテン・テント用のテキスタイルとして使われてきました。
鮮やかな色のコントラストと素朴な風合いで、部屋のテイストを選ばす取り入れやすいアイテムが揃います。
経糸にコットン、緯糸にウールを用いるスタイルが主流ですが、一部シルクが使われることもあります。
キリムに使用する糸は、基本的に植物・鉱物で染められるため、色ムラや経年変化による濃淡と、ぬくもりある風合いが魅力です。
最大の特徴は、キリムのほとんどがリバーシブルデザインということ。
職人の手による、繊細で丁寧な仕事がもたらす美しさと実用性が、人々の暮らしにそっと寄り添い、長く愛用できます。
Kilim(キリム)の柄と文様
キリムには、不思議な雰囲気の漂う柄・文様が、ふんだんに織り込まれています。
古くからキリムづくりは、遊牧民女性の重要な仕事のひとつでした。
暮らしに身近なアイテムであるキリムに、女性たちは家族の健康や幸せ・繁栄の祈りを込めた柄を織り込みました。
たとえば、鍵やフック(Cengel)のモチーフは、自分自身や大切な宝(家族など)を守りたい、という願いの表れ。
また、狼の口や足跡(Kurtagzi, Kurtizi)の場合は、遊牧民の大切な牛が、天敵である狼に襲われませんように、との思いが文様化したものです。
ほかにも、自然や動物からインスピレーションを受けたものから、人間・神様のような幅広いモチーフが存在します。
さまざまな願いが込められたキリムは織り手による個性が見られ、暮らしに深く根付くと同時に、実はとてもパーソナルなアイテムだといえるでしょう。
主なKilim(キリム)の種類
キリムは、生産地域によって細かく分類でき、それぞれ独自の個性が光ります。
糸を植物で染める工程から織りあげまで、すべて人の手で行うため、同じ地域で生まれたキリムですら、ひとつひとつの表情が異なります。
ほんの少しの違いが、選ぶ人の好みや部屋の空気を変えるもの。
キリムにも種類によって特徴があるということを知り、自分だけのキリム選びに役立ててください。
ペルシアン・キリム
幾何学模様と色のコントラストで、なんとも不思議な魅力を持つ、ペルシアン・キリム。
ペルシアン・キリムは、現在のイランを中心としたペルシャ地域の遊牧民によって織られます。
ペルシャ絨毯に多いパイル(ループ状の糸)を使用せず、表面にフサフサした質感がないのが特徴。
そのためカーペットのほか、鞄やテント用のカーテンといった幅広い用途に使いやすいのがポイントです。
抽象的なパターンは存在感がありながら、シンプルな部屋に置いても主張しすぎないため、絶妙に馴染みます。
サイズの小さなものを取り入れれば、インテリアのポイントにちょうどいいですね。
アフガン(アフガニスタン)・キリム
イランの東に位置する国・アフガニスタン北部に住まう、トルクメン族によって織られるキリムの一種です。
8角形の幾何学模様が中心で、ペルシアン・キリムに比べると、やや暗めの色あいが特徴です。
アフガン・キリムの中でもキリム・ゴルマリヤスタという種類があり、花柄モチーフが魅力的なアイテムが人気です。
部屋をオリエンタルな雰囲気にしたいけど、すこし落ち着いたムードにまとめたい場合にぴったりのキリムが揃います。
モルドバン・キリム(ローズ・キリム)
モルドバン・キリムは、トルコ北部のモルドビアで生産されるキリムのひとつです。
美しいバラのパターンが多いことから「ローズ・キリム」とも呼ばれます。
暗めの基礎色に、鮮やかなバラの葉と花が映え、優美なムードを演出します。
特殊な技術で織られた生地は、ほかのキリムに比べると薄手なため、ベッドカやソファにかけるとエレガントなアクセントに。
マットな質感の多いモルドバン・キリムは、シックな家具・インテリアにあわせてもよさそうです。
トルコ・キリム
トルコは、キリム伝統の長い生産地域のひとつ。
そのため、ひと口に「キリム」といっても、地域によって特色に幅があるのが、トルコ・キリムの面白いところです。
たとえば、トルコ西部のウシャク周辺では、ひし形の幾何学模様を中心とした、規則的なパターンが特徴です。
どの種類も良質なウールが使われているので、部屋の敷物やタペストリーとしてはもちろん、アウトドア用マットにも大活躍。
厚みがあまりないため、場所を問わず使いやすいのがうれしいキリムです。
古いキリムを再活用!キリム・パッチワーク
イランの遊牧民やトルコの一部地域では、古くなったキリムを繋ぎあわせて「キリム・パッチワーク」をつくります。
織物づくりは時間と労力がかかり、簡単にできるものではないため、人々は生活の知恵として、既にあるアイテムを上手に再活用していました。
歴史を超えてひとつになったパッチワークは、それぞれの柄を引き立たせ、独特の雰囲気が感じられます。
製造年代や作り手が違っても、不思議と新たな魅力を引き出せるキリム・パッチワーク、ロマンがありますね。
独特だけどシンプルな、世界にひとつだけのキリム
織り手の個性や草木染めによる糸の風合いで、ひとつとして同じものがないキリムは、奥深い魅力にあふれています。
遊牧民の必須アイテムとして織り続けられ、祈りのこもったモチーフには、使う人を包み込んでくれる神秘的な雰囲気すら感じられます。
使う人や部屋を選ばず、置くだけであたたかなムードを演出できるキリムを、ぜひ一度手に取ってみて下さい。
素朴であたたかみのあるキリムの世界に、きっと惹き込まれるはずです。