アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)は、フィンランドを代表する世界的な建築家・デザイナーです。
数々の著名な建築物を手がけたほか、家具や食器などのデザインにも関わっています。
ユーロが通貨として導入されるまでフィンランドで使用されていた「50フィンランド・マルッカ紙幣」にはアルヴァ・アアルトの肖像が描かれ、「北欧の賢人」との異名をもつほど、20世紀の北欧デザイン界に多大な影響を与えた人物です。
ここでは主に、デザイナーとしてのアルヴァ・アアルトについてご紹介します。
目次
アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)について
Hugo Alvar Henrik Aalto(フーゴ・ヘンリク・アルヴァ・アアルト)は、1898年にフィンランドの小さな町・Kuortane(クオルタネ)に生まれました。
「フィンランドの建築家リストのトップに名前が載るように」と活動名を Alvar Aalt(アルヴァ・アアルト)にしたというエピソードからは、仕事に対する彼の強い志を感じられます。
建築家として活躍し、時にアートや彫刻制作を行なっていたアルヴァですが、あくまでも「軸は建築」という認識を持っていたようです。
アルヴァ・アアルトは生涯にわたり、フィンランド国内をはじめ、世界中で多くの偉大な建築をデザインしています。
その中で、常に「建築と家具・調度品は補完しあうもの」と考えていたことから、自然な流れで家具や食器のデザインを手がけるようになりました。
アルヴァ・アアルトがデザインした『スツール 60』に代表される家具は、現在、家具ブランドの Artek(アルテック)が製作・販売を行っています。
また、1937年のパリ博覧会に出品して世界的に有名になった『アアルト・ベース』は、グラス・食器ブランドの iittala(イッタラ)が製作しています。
アルテックもイッタラも、アルヴァと妻 Aino Aalt(アイノ・アアルト)のデザイン製品を販売する目的で創立され、現在まで高い人気を誇っています。
アルヴァ・アアルトのデザインが台頭したきっかけ
アルヴァ・アアルトは、1930年代から本格的に、プロダクトデザイナーとしてのキャリアを歩みはじめました。
大きな転機は、1933年に完成した『Paimio Sanatorium(パイミオのサナトリウム:結核療養所)』の建築設計と並んで発表された、アルヴァによるデザインの家具や照明が高い評価を受けたことにはじまります。
はじめてお披露目されたアルヴァのプロダクトは、木材を中心に使用したしなやかなフォルムで、手作りではなく量産型とは思えないほど美しく実用性の高い仕上がりに、当時の人々を驚かせ、注目を集めました。
この出来事がきっかけで、アルヴァ・アアルト1935年にデザイン家具・照明の販売会社 Artek(アルテック)を創業し、世界に向けて家具・インテリアデザインの発信をはじめました。
アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)がデザインした主な製品
アルヴァ・アアルトがデザインした主な製品は、大きく分けて「家具」「照明器具」「食器・花器」の 3つのカテゴリーに分けられます。
主に家具と照明器具は Artek(アルテック)社から、グラスをはじめとした食器類は Ittala(イッタラ)社から販売され、現在も多くの名品が定番商品として並んでいます。
見た目のうつくしさと機能性を持ち合わせたアルヴァのデザインは、のちの北欧デザインに大きな影響を与えました。
ここからは、アルヴァ・アアルトによるすばらしいデザインの数々を、代表作品とともに見ていきましょう。
家具
アルヴァ・アアルトの家具デザインで最大の特徴は、フィンランドの伝統技法をはじめとした職人による技法を量産型に適応させている点です。
白樺(バーチ材)にカーブをつける「曲げ木技法」は、バーチ材を職人の手でひとつずつ曲げてつくられる、とても手間のかかる方法でした。
しかし、アルヴァの「見た目の美しさと実用性、どちらにも優れたデザインを世界に発信したい」という思いから、曲げ木技法を使った家具を、機械で生産できる方法を編み出しました。
この技術は特許を取得し、アルテック社で扱うアルヴァデザインの家具に、現在も見ることができます。
3 Leg Stool 60(スツール60)
アルヴァ・アアルトのデザインした家具デザインの中で、もっとも有名なシリーズのひとつが『3 Leg Stool 60(スツール60)』です。
ロシアのヴィボルグ図書館に向けてデザインされ、1933年に発表されました。
木材を直角に曲げる『L-レッグ技法』によって、腰かけと脚のつなぎ目を自然に見せてくれ、家庭やオフィスに置いても違和感のないデザイン。
シンプルな 3脚は、サイドテーブルやディスプレイ台のように幅広い用途に使え、重ねて収納できるのが魅力です。
腰かけ部分は黒、赤、青といったベーシックな色のほか、近年は色や木材の組み合わせによるバリエーションが増えているため、好みの組み合わせを楽しめます。
初代のオリジナルモデルは『ニューヨーク近代美術館 MoMA』に所蔵されています。
Paimio Armchair(パイミオ・チェア)
もうひとつ有名な作品が『Paimio Armchair(パイミオ・チェア)』です。
先ほど少しふれた結核療養施設のためにデザインされ、家具デザイン界にアルヴァの名を知らしめるきっかけになったアイテムです。
曲げ木技法によってつくられた、しなやかな形の椅子は、結核患者の人々が長時間の治療で疲れないように配慮され、無理のない姿勢で座り続けられるデザイン。
ひじ掛けと脚がフレーム状でつながり、腰かけと背もたれが波のようにうねるデザインは、座った人がまるで宙に浮いているかのような不思議な感覚をもたらします。
丈夫につくられたフレームは、時を経ても両側のバランスが崩れることなく、耐久性にも優れているのが特徴です。
パイミオ・チェアに腰かけて、読書をしたり、コーヒーを片手にくつろぎの時間を楽しめそうですね。
照明器具
A330S ゴールデンベル
アルヴァ・アアルトが手がけた照明アイテムの中で、もっともよく知られているのが「ゴールデンベル」の愛称で親しまれる「A330S」シリーズでしょう。
1937年、フィンランドの首都・ヘルシンキにオープンした高級レストラン『SAVOY(サヴォイ)』の内装を任された際、アルヴァと妻アイノが制作した、品のある華やかな真鍮ランプです。
1枚の真鍮でつくられた、シンプルでエレガントな形は、まさにベルの音色が聞こえてきそうなデザインです。
無塗装のゴールデンベルは経年とともに劣化していきますが、少しずつ変化していく姿も美しく、サヴォイレストランでは現在も変わらずゴールデンベルが使用され、贅沢な空間をさりげなく美しく演出しています。
食器・花器
アルヴァ・アアルトは、家具のほかに食器・花器のデザインも手がけました。
中でも最も有名なのは、ガラス・食器ブランドである iittala(イッタラ)から販売される花器シリーズ、『Aalt Vase(アアルト・ベース、別名 Savoy Vase)』ではないでしょうか。
ゴールデンベルと同じく、ヘルシンキのレストラン SAVOYに向けてデザインしたアイテムで、1955年のパリ万博へ出品したことをきっかけに、世界じゅうに知られるようになります。
アアルト・ベースは、20世紀においてのフィンランドデザインの象徴的な存在となりました。
うねりのある独特な形は、フィンランドの湖や波(フィンランド語で「Aalt(アアルト)」=波の意味)など諸説あるようですが、活けた花や水をいきいきと見せてくれ、きらめきを与えてくれます。
現在でも熟練の職人7人がかりでつくられ、複雑な形でも耐久性に優れたアイテムを実現しているというから驚きです。
花器のほか、キャンドルホルダーやそのままオブジェとしても映え、光を取りこむことでさらに魅力が増す不思議なアイテムです。
美しきフィンランド・デザインを世界に発信したAlvar Aalt(アルヴァ・アアルト)
アルヴァ・アアルトは、有機的な素材やフォルムと、光を取りこんだ建築デザインを、家具や照明・食器といったプロダクトに取り入れ、さらに多くの人々に手にとってもらえるよう、量産型での生産体制を確立しました。
彼は、美しいデザインを人々の暮らしの中に気軽に取り入れられるきっかけをつくった、北欧デザインの先駆者ともいえる存在なのです。
アルヴァのデザインは、今も世界じゅうで多く人々の生活に、美しいものを使う楽しさと、やわらかな光をもたらし続けています。