モノづくりは、人の心を、ひいては社会全体を豊かにする。
そうした考えのもと、近年のノルウェーではメイカースペースが少しずつ増えつつあります。
もともとモノづくりが好きな人たちの多いノルウェーですが、メイカースペースという概念は比較的最近あらわれたようです。
日本ではまだあまり知られていない、ノルウェーのメイカースペース事情。
ノルウェーの現状やメイカースペースが広まる理由、実際に存在する魅力的なメイカースペースについてご紹介します。
目次
今、ノルウェーでメイカースペースがきている?
昔から「何でも自分でつくる」考え方が当たり前に存在するノルウェーですが、この数年でメイカースペースの存在が大きくなりつつあります。
2020年時点で、ノルウェー国内にはメイカースペースが29か所存在します。
小規模のワークショップスペースを含めば50か所に達し、かなりの速度で普及が進んでいるようです。
主要な都市を中心に大小さまざまな規模のメイカースペースが建ち、大きな町に必ずひとつはある様子。
ノルウェーのメイカースペースは、今や町の図書館のように身近な存在です。
ノルウェーのメイカースペースが盛んな理由
ノルウェーのメイカースペースは、2014年にNPO団体Norway Makersが発足して以降、徐々に数を増やしています。
広い敷地が必要で、工具や防音設備といった設備投資が決して安くないメイカースペース。
世界では、採算が取れず撤退するところもある中、どうしてノルウェーでは今これほど盛んなのでしょうか。
そのヒントは、どうやらノルウェーの社会の仕組みの中にありそうです。
「やりたいことをさせよう」なノルウェーの教育
ノルウェーの子どもたちは、小さなころから個人として扱われ、各々の意志を尊重した教育を受けるのが主流。
日本人から見ると、ずいぶん自由なスタイルに驚きますが、だからこそ創造性・表現力が豊かで、広い視野を持つことができるのだな、とも感じます。
さらに大学まで学費が無料のため、キャリアチェンジのために何度も大学へ行き直す人が少なくありません。
いくつになっても学びを忘れず、新たなチャレンジをしやすいノルウェーの環境で、メイカースペースの存在も大きな助けになっているはずです。
クリエイティブな活動に力を入れる自治体と政府
聞いた話によると、ノルウェーは世界で最もコンサートの年間催行数が多い国なんだそうです。
メイカースペースとライブ会場に直接の関係はありませんが、この事実から多くのノルウェー人が、仕事かどうかにかかわらずクリエィティブ活動に多くの時間を割いていることが分かります。
メイカースペースのほとんどは、NPO団体や文化・教育機関によって運営されています。
NPO団体・機関は、ほとんどが自治体もしくは政府の援助を受けているため、クリエイティブな活動を応援する根源は政府の方針にあるといえます。
国を挙げて国民みんなの「つくる」機会を増やし、芸術やビジネス展開を助ける取り組みがあるからこそ、ノルウェー人は創作活動に力を入れることができるのです。
石油と、豊富な財源を利用した国のチャレンジ精神
上記2つの理由の根源は、1970年代に採掘されて以降、国の財源を潤す石油事業からの転換・脱却にあります。
「石油は有限な資源で、いつかはなくなる」「環境への影響を懸念する」といった事情から、ノルウェーでは長年、石油事業に代わる中枢産業の模索が続いているのが現状。
かつては石油に心を奪われ、デザインへの競争心を失ったノルウェーですが、国を挙げてメイカースペースを次々とオープンさせています。
メイカースペースを利用したビジネス・創作活動を推進し、競争心と情報共有の役割をもたせて事業活性化を図る、という狙いがあるようです。
石油で得た豊富な財源を未来のために投資し、国の将来を少しでもいい方向へ持っていきたい、ノルウェーのポジティブな願いが込められています。
ノルウェーのさまざまなメイカースペース
大小あわせて50か所はある、ノルウェーのメイカースペース。
ひと口にメイカースペースといっても個性があり、広さや設備・特に力を入れているポイントは場所によって異なります。
ここでは、首都オスロを中心に、厳選した国内4か所のスペースをご紹介します。
さまざまなバックグラウンドを持つ人たちが同じ空間を過ごし、新たな情報と刺激を受けられる場所は、ノルウェーにもたくさんありますよ。
Fellesverkstedet
NPO団体が運営する、オスロ市内のメイカースペースです。
FellesverkstedetのあるGrünerløkka(グルーネルロッカ)地区は、アートカルチャーの色が強く、芸術家やクリエイターに人気のエリア。
机に向かってアイディアを練るラボから、本格的な工具・機械を使用して手を動かすスペースまで、多様なエリアに分かれています。
オープンスペースのため、誰でも気軽に作業できるのがいいところ。
疲れたらキッチンスペースで、コーヒーを片手に仲間と語らう時間を過ごせます。
Kroloftet
オスロ市内の、やや郊外に位置するKroloftetは、シェアオフィスを併設するメイカースペースです。
吹き抜けの大きな建物には、1階部分に作業やミーティング用のスペース、2階部分に個人事業主・小規模ビジネス経営者に向けたデスクが並びます。
筆者は会員でもなんでもありませんでしたが、一度ここで友人とワークショップを開催したことがあります。
オーナーはとても気さくな方で、普段の利用者でなくてもクリエイティブなアイディアがあれば、親身になって協力してくれました。
陶芸・メタル加工・木工などに専念できるスペースがあり、利用者のひとりが木製の車を見せてくれたのが印象的でした。
広いスペースでみんなが活き活きと作業できると、創作がもっと楽しくなる!ということを実感した場所です。
Verksteder, atelier og kontorplasser | Kroloftet
Marineholmen Makerspace
Marineholmen Makerspaceは、ノルウェー第2の都市・ベルゲンにあるメイカースペースです。
カレッジやワークショップを通じて学びの機会を提供するBergen MakersとVestlandets Innovasjonsselskapの協力を得て設立されました。
400平方メートルを超える大きな建物内には、3Dプリンターといった最新機械から、ミシンのような身近な道具まで揃い、会員登録をすると自由に使えます。
クリエイターだけでなく、起業家や研究者も利用できる、ラボさながらの充実っぷり。
ひとりひとりが作業に打ち込めるるように配慮された、快適な設備を整えたスペースです。
Tvibit Makerspace
Tvibit Makerspaceは、オーロラスポットで有名な北部の町・Tromsø(トロムソ)に位置しています。
工具スペースだけでなく、音楽や映像制作の設備が豊富に整った、ある意味ノルウェーらしいメイカースペースです。
特筆すべきは、15歳~30歳の若者を対象に、無料で一部サービスを提供している点。
次世代にこそ、夢やアイディアのために打ち込める場所として使ってほしい、という願いが込められています。
Tvibit Makerspaceは、町の未来を支える貴重な存在です。
メイカースペースで、ノルウェー社会を活性化!
人々の暮らしを豊かにする「モノづくり」が大切な要素だと気づき、国全体でメイカースペースを推し進めるノルウェー。
個人の喜びである創作活動は、他人と空間を共有することで化学反応が起き、やがて社会全体を前向きにさせてくれることもあります。
原始的なモノづくりも、最新技術を利用したモノづくりも、元をたどれば暮らしをより豊かにしたいという願いから始まるもの。
みんなの幸せの源であるノルウェーの「モノづくり精神」は、メイカースペースによってより強くなっていくに違いありません。