近年、北欧由来の概念である、デンマーク語の「Hygge(ヒュッゲ)」や、スウェーデン語の「Fika(フィーカ)」「Lagom(ラーゴム)」を聞くようになりました。
一方ノルウェーでは、興味深いことに「Koselig(コーシェリ)」という、また違った言葉が広く浸透し、ノルウェー人はこの概念を大切にしながら暮らしています。
力の抜けたノルウェー人の暮らし方・習慣には、現代の忙しい日本人が見習うべきヒントが詰まっています。
そんなノルウェー人の、生活や仕事・社会への考え方を知るうえで、コーシェリは欠かせないキーワードといえるでしょう。
もっと「快適で幸せな暮らし」を求めるあなたに、ぜひ知ってほしい言葉です。
目次
Koselig(コーシェリ)とは
ノルウェーに住んだ経験のない方に向けて、koselig(コーシェリ)の概念を説明するのは、実はとてもハードなこと。
なぜかといえば、どの言葉にも直訳できないからです。
よく英語では「cozy(居心地のよい・くつろいだ)」や「nice(すてきな)」と訳する人もいますが、当のノルウェー人たちからすれば「それだけじゃ表しきれない」のだそうです。
それでも、あえて近い雰囲気の言葉を並べるとすれば、「心地よい」「あたたかい」「ほっこり」「ゆったり」「リラックス」でしょうか。
日本語の「もったいない」や「よろしくお願いします」などの説明が難しいように、koseligの守備範囲はずいぶん広いのです。
Koselig(コーシェリ)は、どんなときに使えるの?
Koselig(コーシェリ)は、ノルウェー語では形容詞にあたるため、基本的に人の感情や会話・空間まで、どんな対象にも使えます。
たとえば、親しい人との会話や食事の時間はもちろん、ひとりでリラックスする時間や、その瞬間に感じた気持ちが「koselig」。
人から贈り物をもらったときに「koseligだね!ありがとう」と反応することもあります。
暮らしのちょっとした瞬間や雰囲気を存分に満喫し、幸せを感じたときに、koseligは気軽に使える言葉です。
ノルウェーでは、Hygge(ヒュッゲ)よりも主流なKoselig(コーシェリ)
デンマーク語由来のHygge(ヒュッゲ)という言葉、実はノルウェー語で主にHyggelig(ヒュッゲリ)という形容詞で使われます。
初めましての人に対して「Hyggelig å møte deg!(会えてうれしいです)」のように、「うれしい・楽しい・ワクワクした」のニュアンスが強い言葉。
デンマークと同じスカンジナビア系統の言語を持ち、歴史的・文化的にかかわりの深いノルウェーですが、実際の生活でHyggeを聞く機会は、そこまで多くありません。
とはいえ、どちらも「幸せな暮らし」の対象や概念を表せるという意味で、デンマークのHyggeと、ノルウェーのKoseligは似ているのではないでしょうか。
Koseligはさらに、個人の感情やモノ・空間に対しても使える万能さを持っています。
気軽に使われる「Kos deg!=ゆっくりしてね」
Koselig(コーシェリ)の動詞バージョンkoseに、「あなた(たち)」を意味するdeg/dereをつなげたフレーズKos deg(dere)は、日常でよく使われます。
ちょっと訳が難しいのですが、日本語の「ゆっくりしてきてね」のようなニュアンスを含んだ言葉です。
たとえば、SNSで「ヒュッテに遊びに来ていて、休みを満喫している」という友人の投稿に対し「Kos deg」とコメントするノルウェー人をよく見かけます。
これは単純に「楽しんで!」という、ワクワク感を含んだニュアンスというよりは、もっと「くつろいで」「リラックスしてね」の意味あいが強いでしょうか。
適度に力を抜く生き方が得意な、ノルウェー人らしいフレーズといえそうです。
イメージで考えるKoselig(コーシェリ)
使用範囲が広く、どんなものにでも言えてしまうからこそ、言葉の説明がなかなか難しいkoselig(コーシェリ)。
ノルウェー人たちも感覚で用いるため、人によって多少の差がみられます。
それでも、誰もが同じようなイメージを根底に抱えているのは事実。
ここではkoseligのイメージをつかみやすいように、いくつか具体的な例をあげて解説します。
あたたかな部屋の雰囲気
koselig(コーシェリ)は、北欧の寒くて暗い冬の時期だからこそ、あたたかい部屋を重視します。
ここでいう「あたたかい」とは、気温のあたたかさはもちろん、インテリアのデザインや色・素材の持つあたたかさも含まれます。
冬は日の出がほんとうに短いため、家の雰囲気を明るくリラックスした雰囲気に整えることは、ノルウェー人にとって大変重要なポイント。
心から「koseligだ」と思える部屋は、日々の暮らしをより豊かにしてくれます。
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朝や昼下がりの、コーヒー時間
ノルウェー人は、とにかくコーヒーが大好き。
中には1日に3杯以上飲むという人も少なくありません。
仕事・家事の合間や休日の、コーヒーを片手にリラックスする時間は、とってもkoselig(コーシェリ)です。
ちなみに、あたたかいコーヒーと焼きたてワッフルの組み合わせは、ノルウェーの典型的なおやつスタイルです。
昔からノルウェーではコーヒー器具を使わず、やかんに直接コーヒーの粉を投入して沸かすKoke kafe(クーケ・カフェー)が主流でした。
お気に入りのキッチン道具や食器に囲まれてたkoseligなキッチンで、しゅんしゅんと音を立てるやかんの湯気とともにコーヒーの出来上がりを待つ時間もまた、koseligなものです。
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暖炉・キャンドルの火
ノルウェーでは今も暖炉を使用する家庭が多く、幼いころから火に親しんでいます。
特に山小屋(hytte ヒュッテ)や田舎では、夏の間に薪を蓄え、長い冬に備えるもの。
暗い冬の部屋で暖炉の近くに座り、ときどき薪をくべながら、ぼうっと揺らめく炎を眺める瞬間は、まさにkoselig(コーシェリ)です。
もうひとつ、北欧の冬で忘れてはならないアイテムが、キャンドル。
暗くなっても電気を付けず、あえてキャンドルを灯してkoseligな時間を過ごすこともあります。
ノルウェー人と火は、切っても切れないkoseligな関係です。
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夏の日向ぼっこ
ノルウェーにおけるkoselig(コーシェリ)な瞬間は、冬だけではありません。
夏の間はほとんど1日中太陽が昇り、日本ほど湿気がなく過ごしやすいのが北欧です。
晴れの日には公園へ行っておやつを食べたり、水着(!)で草むらに寝転がってひなたぼっこを楽しむのが大好き。
アパートのバルコニーには、椅子やバーベキューセットを持ち出して、太陽光を浴びながら読書や食事を楽しむ人の姿まで。
明るい夏の太陽の下で、めいっぱい幸せな瞬間を楽しむのが、ノルウェー流・夏のkoselig時間です。
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気があう仲間との、食事とおしゃべり
気心の知れた友人や大切な家族とすごす時間は、どんなときも心地よいもの。
特に、やわらかな光の灯る、薄暗くあたたかなムードの中で、おいしい手料理をともにするディナーや、陽射しの下でピクニックランチを楽しむ時間は、とてもkoselig(コーシェリ)です。
あるいは、友人たちとハイキングをして外で焚き火をし、Pølse(焼きソーセージ)を食べながら過ごすことをkoseligという人もいます。
ワインやアクアヴィット(北欧のじゃがいも蒸留酒)を一緒にたしなめば、よりkoseligでリラックスした時間を満喫できますよ。
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心地いい瞬間をめいっぱい楽しむ、koselig(コーシェリ)な暮らし
ノルウェー人は、koselig(コーシェリ)を軸に暮らしの質を決めている、といっても過言ではありません。
いつでもkoseligな仲間や時間・空間を求め、小さなことにも幸せを感じながら生きています。
つい毎日の忙しさに見舞われ、心に余裕がなくなってしまう人も多いかもしれません。
そんなとき、このkoseligな感覚を思い出してみてください。
あなたの身のまわりにも、koseligなモノや瞬間が、たくさん潜んでいるはずですよ。