自然に囲まれ、クリエイティブな活動がさかんなアメリカ合衆国・ポートランド。
近年の環境・気候変動問題への高まりとともに、モノづくりにおいても「エコ」や「サスティナビリティ」といったキーワードが、世界的に重要視されはじめています。
そんな中ポートランドでは、ひと足早く「アップサイクル」で、廃材や中古品を利用した DIY が行われてきました。
ここでは、アップサイクルの意味と、アメリカ全体・ポートランドのアップサイクル事情についてご紹介します。
目次
アップサイクルとは?
リサイクル(Recycle)という言葉には馴染みがあるかと思いますが、アップサイクルって何?と思われる方もいるでしょう。
以下は、アップサイクルを分かりやすく説明した引用です。
アップサイクル(Upcycle)とは、リサイクルやリユースとは異なり、もともとの形状や特徴などを活かしつつ、古くなったもの不要だと思うものを捨てずに新しいアイディアを加えることで別のモノに生まれ変わらせる、所謂”ゴミを宝物に換える”サスティナブルな考え方です。
(引用元:一般社団法人 日本アップサイクル協会)
つまりアップサイクル(Upcycle)とは「使わなくなったものを、原料に戻すことなく再利用する」こと。
「まだ使えるかもしれないけど、そのまま使うのは難しい」といった素材を利用し、アイディアを駆使してモノに新たな命を吹き込む、クリエイティブな行為ともいえるでしょう。
アップサイクルとリサイクル、リユースの違い
リサイクル(Recycle)は、ペットボトルやガラスを一度原料に戻す過程を挟むため、時間とエネルギー・労力がかかります。
リユース(Reuse)は、まさに「再利用」のことを指し、できるだけモノの形状を変えずにそのまま使う、といったイメージです。
対するアップサイクルは、モノを溶かしたり粉々に分解したりする必要はなく、素材を活かして再利用すればいよいため、DIY にぴったり。
たとえば、ペットボトルの空き容器を「プラスチックの液体に戻し、新たにつくり直す」のがリサイクル、「ペットボトル容器に、液体・個体を入れてもう一度使う」のがリユース、「素材を活かし、手を加えて別のモノにつくり替える」のがアップサイクル、です。
アメリカの家事情から見る、アップサイクルの魅力
まず、アメリカ全土における家事情にフォーカスを当ててみましょう。
日本、特に都市部で「家を買う」といえば、新築物件の購入を指す場合が多いですよね。
しかし、アメリカでは「以前から立っている家」、つまり中古物件を購入するパターンが多いことが実情です。
一部では新興住宅の開発が進む地域もありますが、地震をはじめとした自然災害が比較的少ないことから、まだまだ住める状態の住宅を買い取るのは今でもよくあることです。
ただし、あくまでも「中古」のため、壁のペンキ剥がれやドアのすきま風・水道管の水漏れ…直すところがいっぱい!
手に負えない箇所は業者に頼みますが、ちょっとしたメンテナンスは自分たちでやったほうが、好きにできるし安く済む!という事情から、DIY 文化はアメリカに深く根付いています。
一からモノを作るのはハードルを感じる人もいるかもしれませんが、すでにある中古の家具やパーツに少し手を加える程度なら、やり方さえわかれば誰もができるはず。
「古いけど、まだ使えるもの」を前に想像力・創造力を思う存分発揮して、自由にカスタマイズできるのが、アップサイクル・DIYの魅力なのです。
ポートランドのアップサイクル事情
アップサイクルは、アメリカの住宅事情が大きく関係していますが、ポートランドに絞るともう少し特殊な事情が見えてきます。
コミュニケーションや自由表現を尊重し、自然を愛する人々が暮らす町・ポートランドで、なぜアップサイクルを利用した DIY が好まれるのでしょうか。
ここでは「クリエイターの存在」と「環境問題」を挙げてご紹介します。
クリエイターの存在
ポートランドには、たくさんのアーティストや起業家が活躍しています。
「クリエイター」といえば、常に新しいものに目を向け、何もないところからモノ作りを行なうイメージがありますよね。
しかし、多くのデザインが伝統や古いものからインスピレーションを受けるように、「すでにあるモノ」をどう活かそうか?という点にワクワクする作り手は多いようです。
実際、廃材を家具につくり変えたり、端切れ布でテキスタイルアイテムを生み出したりと、自由な発想によるアイディアが次々に生まれています。
古くても新しくても、彼らにとってはすべて「創作意欲の源」なのです。
環境・地球への思いやり
ポートランドは古くから林業が盛んなため、現在も緑が多い町として有名です。
一方で、世界的に気候変動が深刻な問題となっています。
徒歩圏内で自然と触れ合えるポートランドの住環境だからこそ、リサイクルのような「エネルギーを余分に消費する」再利用法よりも、既にある素材を活かすことで、少しでも地球への負担を減らしたい、という思いがあるのでしょう。
アップサイクルは、自然を愛するポートランドの人々にとって大切な「地球にやさしい暮らし方」の選択肢です。
ポートランドのアップサイクル拠点
DIY 精神あふれる人々が集まるポートランドには、アップサイクルに重点を置いた施設が存在します。
古いモノを手放すときに「メンテナンス・加工をすれば、誰かに使ってもらえる」という思いで、素材を集める場所。
中古品でも「別の角度で見れば、違うアイテムに変身させて使えそう」と、創作意欲を掻き立てられる場所。
今回は、それぞれの色が強いポートランドの施設を2つ挙げました。
ポートランドの DIY 精神が根強く生きるヒントを探ってみましょう。
The Rebuilding Center(ザ・リビルディング・センター)
ザ・リビルディング・センター(The Rebuilding Center)は、ポートランド市内にある、ボランティアベースの施設です。
1998年に設立されて以来、解体現場から廃材や中古品を集める一方、寄付によってアメリカ中からさまざまなパーツ・建材が寄せられます。
ちいさな木材から照明器具・窓のような大型パーツまで、膨大な量の素材を販売しています。
さらに、建築・配管といった幅広いテーマでワークショップを用意。
誰もが DIY に挑戦できるよう、マテリアルから教育まで提供しているのが特徴です。
おうちを DIY したいけど、何から手を付けていいのか分からない!という人も気軽に利用でき、同じ志を持った仲間まで見つけられる、心強い存在です。
メイカースペース
メイカースペースは、とにかく「モノづくりがしたい!」という人が集まる、共同創作の場のこと。
起業精神にあふれる人と、趣味で制作を楽しみたい人が同じ空間・時間を共有することで、技術や情報を交換の場、互いを刺激し合えるコミュニティの場としての役割も担っています。
道具や作業スペースを持っていなくても、創造性を発揮して気軽にモノづくりを楽しめる、貴重な存在。
もちろん、壊れた家具を修理するためや、パーツをばらして新し造り変える目的にも、メイカースペースはぴったりの場所です。
単なる「場所・道具」の利用だけでなく、その場に居合わせた仲間との会話から、新たな発想が生まれることも。
ひとりで静かに作業するのもよいですが、アップサイクルのアイディアを求めてメイカースペースに足を運ぶと、世界がもっと広がるかもしれません。
メイカースペースについては、下記の記事で詳しく紹介していますので是非ご覧ください。

アップサイクルで、DIY をもっと楽しく
今すでにあるものを上手に活用して、無駄なく DIY を楽しめる、アップサイクル。
古くから日本で大切にされてきた「もったいない」の精神と類似する概念でもあります。
遠く離れたアメリカ・ポートランドの地で、古くなったモノを上手に再利用し、長く・大切にモノを使う工夫は、お金を出せば何でも買えてしまう現代社会において、今一度見直されるべき価値観なのではないでしょうか。
暮らす場所や環境は違っても、まずは目の前にあるモノを大事に使い続け、壊れたら直して新たな命を吹き込む「アップサイクル」を利用したDIYは、きっとみなさんの暮らしをもっと楽しくしてくれるはずです。