現代に暮らすわたしたちから見て、決して古さを感じさせず、むしろ斬新な発想にワクワクした気持ちになれる過去のデザインは多いもの。
20世紀半ばに興隆したミッドセンチュリーのデザインは、今から半世紀ほど前に考案されたとは思えないほど、美しいものばかりです。
大量生産が求められた戦後、デザイナーや技術者の知恵が集約された逸品の数々は、今もなおわたしたちの暮らしに根付いています。
時代や部屋のタイプを問わず、気軽に取り入れやすいミッドセンチュリーについて、すこし深く堀り下げてみませんか?
目次
Mid-century(ミッドセンチュリー)とは
Mid-century(ミッドセンチュリー)は、デザイン業界で用いられるムーブメントまたは様式です。
直訳「世紀の半ば」のとおり、20世紀中盤から後半にかけてデザインされた建築やインテリア・グラフィックといったカテゴリーを含みます。
1945年に第二次世界大戦が終わり、国の復興のために経済戦略が求められた時代。
新たな生活の場が形成される中で、家具やインテリア・キッチンツールといった暮らしのアイテムを大量生産する必要がありました。
特にアメリカは戦勝国かつ、自国が戦場にならなかったため、デザイナーによる新技術や安定した機械生産を整えるのが早かったのです。
インテリア分野では、1950年代から70年代にかけて、アメリカを中心にシンプルで機能的なデザインが多く生産されました。
Mid-century(ミッドセンチュリー)ブームは世界で起こった
よく「ミッドセンチュリー=アメリカのデザイン」とイメージされがちですが、実はアメリカだけにとどまらず世界じゅうで発生しました。
特に欧州や北欧では優れたデザイナーの活躍により、アメリカに輸出するほど人気を持つブランドも現れます。
20世紀半ばにデザインが発展した当時、アメリカでは「ミッドセンチュリー」ではなく「アメリカン・モダン」と呼ばれました。
ミッドセンチュリーという言葉が用いられはじめたのは、1980年代ごろからといわれています。
日本では、高度経済成長期にあわせて大量生産品がつくられ、柳宗理や剣持勇といった著名なデザイナーが活躍しました。
ひと口に「ミッドセンチュリー」といっても、地域や詳細な年代によって、活躍したデザイナーや流行スタイルは若干異なるのです。
それでも実用性と見た目の美しさに秀で、求めやすい価格で戦後の人々の暮らしを整えたところに、ミッドセンチュリーの共通した功績・恩恵が見られます。
Mid-century(ミッドセンチュリー)の代表的なデザイナー&ブランド
世界で同時多発的に巻き起こった、ミッドセンチュリーのムーブメント。
各国で家具やインテリアの大量生産が求められた当時、多くのブランドやデザイナーが追究したのは、コスト削減によるチープさではなく、第一に機能美と実用性でした。
戦後の生活に余裕がない人にも、快適で質の良い暮らしを送ってほしい。
純粋でひたむきな思いを込め、時代を超えて愛されるデザインを生み出した、名デザイナーたちをご紹介します。
アメリカ
ミッドセンチュリー期の中枢ともいえる役割を担い、アメリカ国内をはじめ世界じゅうで活躍したデザイナーたちがいます。
当時の画期的な新技術や斬新なアイディアを駆使し、人々に驚きと快適な暮らしをもたらした、アメリカのミッドセンチュリーデザイン。
アメリカらしい、自由で開放的な雰囲気を存分に味わえる作品を次々と世に送り出したデザイナーの功績は、当時も今も変わりません。
Charles & Ray Eames(チャールズ&レイ・イームズ)
建築を学んだチャールズと、アーティストを志すレイの夫婦による家具デザインは、当時アメリカのデザイン業界をあっと驚かせました。
2人はアメリカのミッドセンチュリー期を代表する Hermanmiller(ハーマンミラー)社に所属し、モダンで画期的な家具やインテリアを次々と世に送り出します。
もっとも代表的な作品ともいえるイームズシェルチェアは、当時開発した FRP(ガラス繊維で補強したプラスチック)を素材に用い、耐久性に優れたアイテム。
シンプルなオフィスやアパートの 1室から、おしゃれなダイニングまで、幅広い場所になじむ優れものです。
常に「いいデザインを、安価で誰にでも」をモットーとし、新技術や素材の研究も欠かさなかったイームズ夫妻。
2人の活躍なくしてデザインは発展しなかった、といっても過言ではないほど、ミッドセンチュリー期の重大な存在です。
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George Nelson(ジョージ・ネルソン)
ハーマンミラー社のデザイン・ディレクターを務め、イームズ夫妻を引き寄せた陰の立役者が、ジョージ・ネルソンです。
自身もデザイナーとして多大な功績を残し、20世紀半ばに行われた世界のデザイン・アワードで数々の賞を獲得しました。
シンプルながらも個性の光る椅子やテーブルのほか、やわらかな光を演出するランプを多く手がけています。
ジョージ・ネルソンのデザインを部屋のアクセントに加えれば、いつもの暮らしがもっと楽しくなるはずです。
北欧(スカンジナビア)
デンマークやフィンランドを筆頭に、北欧各国で優秀なデザイナーによるデザインが数多く生み出されました。
シンプルで無駄をそぎ落とした設計と、木やガラスなど自然の産物を活かした有機的なフォルムが特徴です。
今も世界中で愛されるブランドやデザイナー作品の多くは、ミッドセンチュリー期に誕生しています。
代表的なデザイナーをピックアップするの難しいほど、当時の北欧デザインは素晴らしい才能とアイディアを持つ人々に支えられていたのです。
Alvar Aalto(アルヴァ・アアルト)
フィンランドデザイン界の重鎮であり、アメリカをはじめ世界じゅうで幅広い活躍を見せたのが、アルヴァ・アアルトです。
特にインテリアの分野では、バーチ(白樺)材を大量生産にあわせてしなやかに曲げる技術を開発し、スツール60に代表される美しい木製家具をデザインしました。
彼の発明は、無機質で味気ないイメージだった機械生産家具の常識を変えたのです。
自然素材による有機的なフォルムやぬくもりを大切にし、のちの北欧デザイン界にも大きな影響を及ぼしました。
アルヴァ・アアルトの経歴や代表的なデザインについては、ぜひ下記のページをご参照くださいね。

Hans Wegner(ハンス・ヴェグナー)
20世紀デンマークのインテリアデザインを牽引したのが、ハンス・ヴェグナーです。
1950年に発表された Yチェアをはじめ、ハンスのデザインはエレガントで流れるようなフォルムが目を惹きます。
彼自身、自分のことを「第一に大工、その次にデザイナー」と考えていたようで、緻密な設計による機能美と実用性には納得です。
北欧らしくオーク(柏)材を頻繁に用いた、うつくしく優雅なハンスのデザインは「デニッシュ・モダンスタイル」として現在も支持を得ています。
日本
戦後の高度経済成長期に伴い、新しい家や団地・ビルが次々と建てられた日本。
無機質で味気ないデザイン業界に切り込み、経済の発展と生活の質向上に貢献した、すばらしいデザイナーたちが活躍した時代でもあります。
世界に名が知れ渡った日本人デザイナーは、当時も今も人々の暮らしに深く根付く、すぐれたアイテムを生み出しました。
柳 宗理(やなぎ そうり)
民藝の父・柳宗悦(やなぎ そうえつ)の長男として生まれ、すぐれたデザイナーとして世界に名を馳せた、柳宗理。
なめらかなフォルムのカトラリーシリーズが有名ですが、ミッドセンチュリー期の作品の中特に脚光を浴びたのが、1956年に発表したバタフライ・スツールでした。
当時の日本ではほとんど見られなかった合成天板の強度に着目し、ふたつの板を折り曲げ金具で固定したシンプルなアイテムです。
発表当初は和室向けの仕様もあり、時代にあわせた日本人の生活スタイルに寄り添うあたりが、柳らしい視点といえるでしょう。
https://yanagi-design.or.jp/ydo_sori/
カリモク60
デザイナーではありませんが、日本のミッドセンチュリーデザインを語るうえで、カリモク60は欠かせない存在です。
1962年に発表されたKチェアシリーズは、今もなお不動の人気を誇ります。
もともと海外輸出向けに制作された設計を活かした組み立て式のため、パーツを交換すれば長く使えるのが魅力。
シンプルで品のよさが漂い、家庭だけでなくオフィスや飲食店で取り入れやすいラインナップが揃います。
安定した量産が求められた時代だからこそ生まれたカリモク60の家具は、ひとつは部屋に置きたいアイテムです。
「暮らしの質」を第一に考えた、ミッドセンチュリー期のデザイン
戦後から少しずつ活気を取り戻した人々の、「暮らしの基盤」を整えなおす上で、ミッドセンチュリー期のデザインは大切な役割を担っています。
今ほど技術も素材も選択肢が少ない中、世界のデザイナーたちは”大量生産”という課題を乗り越え、すばらしいデザインを多く生み出しました。
見た目の美しさと機能性、そして価格とのバランスを意識しながら、第一に暮らしの質を守り抜いています。
緻密な設計に基づいたデザインだからこそ、ミッドセンチュリー期のアイテムは時代を超えて愛されるのです。